福岡高等裁判所 昭和24年(ネ)404号 判決 1950年8月21日
主文
本件控訴はこれを棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が原判決書添付別紙目録記載の農地に関する控訴人の訴願に対し、昭和二十三年九月六日為した裁決は、これを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出援用認否は、控訴人において「本訴は、買収計画及び買収処分の違法を攻撃するものではなく、売渡計画の違法を主張するものである。」と述べ、当審証人安見一夫、中野三角、秋吉俊治の各証言を援用した外、いずれも原判決書当該摘示と同一であるから、これをここに引用する。
理由
本件農地につき買収計画が定められ、それによつて買収処分が行われた事実、訴外秋吉俊治が昭和二十年十一月二十三日現在における本件農地の耕作小作農であり、控訴人が右買収計画樹立当時の耕作者である事実、右秋吉及び控訴人がそれぞれ本件農地について買受け申込をしている事実、本件農地について昭和二十三年四月十三日売渡計画が樹立され、右秋吉が昭和二十年十一月二十三日現在耕作の業務を営む小作農として、売渡の相手方と定められた事実、及び控訴人が右売渡計画に対し適法に異議の申立を為し、却下されたので、更らに被控訴委員会に適法に訴願し、同委員会が昭和二十三年九月六日「訴願は理由なく、本件農地売渡計画は取消すべきでない。」との裁決を為し、右裁決書が同月二十六日控訴人に交付された事実は、いずれも当事者間に争がない。
ところが、控訴人は「右秋吉は一時的耕作者に過ぎない。」といい村農地委員会が同人を売渡の相手方と定めた売渡計画の違法を主張するので、これについて検討する。
自作農創設特別措置法施行令第十七条第一項第五号の「一時転貸をした者」とは、自作農創設特別措置法第五条第六号に定める事由によつて、一時転貸をした者であつて、同法第五条第六号に定める事由とは疾病及び同法施行令第七条所定の(一)就学(二)昭和二十年八月十五日以前の召集(三)選挙による公務就任その他云々をいうのである。ところで、控訴人の主張によれば、控訴人が訴外中野峯夫との間に本件農地について買戻契約をしたのは昭和二十一年十二月十九日(訴訟の結果判決により控訴人に所有権移転登記をしたのは、昭和二十三年四月十六日である。)であり、これを昭和十三年より昭和十六年五月まで控訴人の義弟中野三角が耕作し、同年六月より昭和十八年五月まで秋吉俊治が耕作し、それ以後中野三角が再び耕作し同人が昭和二十年四月再度の召集を受けたので、同人から労働力の不足を理由として一年の期限附きで耕作を依頼された秋吉俊治がその後耕作し、昭和二十年十月中野三角が復員したので、同年旧十二月秋吉との間の小作契約を合意解約して昭和二十一年五月より更らに同人が耕作し、同年九月控訴人において満洲より引揚げて中野三角から右耕作権を譲受けたというのであるから、昭和二十年十一月二十三日現在の耕作者である秋吉に対する右施行令第十七条第一項第五号の一時転貸人は、中野三角であつて、控訴人でないことはいうまでもない。従つて、右法条によつて明らかなように、村農地委員会において、一時転貸人である中野三角が近く耕作するものと認め、且つ、被控訴委員会の承認を受けてそれを相当と認めた場合に、一時転借人である秋吉を売渡の相手方から除外して、第一順位者として中野三角を売渡の相手方と定めるべきものであるが、中野三角においては買受け申込をしていないから、秋吉を一時転借人として売渡の相手方から除外すべきではないといわなければならない。
さすれば、訴外秋吉俊治は自作農創設特別措置法第十六条同法施行令第十七条第一項第一号の第一順位の売渡の相手方であるから(同人が自作農として農業に精進する見込のある事実は、原審竝びに当審証人秋吉俊治当審証人安見一夫の各証言によつて、これを認めることができる。)同人を売渡の相手方と定めた村農地委員会の売渡計画及びこれを認容した被控訴委員会の裁決は正当であつて、右裁決の取消を求める控訴人の本訴請求を排斥した原判決は相当である。
よつて、民事訴訟法第三百八十四条第八十九条を適用して、主文のように判決する。(昭和二五年八月二一日福岡高等裁判所)